<小熊秀雄詩集>から

蹄鉄屋の歌 師団通り所見 火の見やぐら 北海ホテルの茶房 旭橋の感想

『蹄鉄屋の歌』 泣くな、

驚ろくな、

わが馬よ。

私は蹄鉄屋。

私はお前の蹄から

生々しい煙をたてる、

私の仕事は残酷だろうか。

若い馬よ、

少年よ、

私はお前の爪に

真赤にやけた鉄の靴をはかせよう。

そしてわたしは働き歌をうたいながら、

――辛捧しておくれ、
   すぐその鉄は冷えて
   お前の足のものになるだろう、
   お前の爪の鎧になろだろう、
   お前はもうどんな茨の上でも
   石ころ路でも
   どんどん駆け廻れるだろうと――、

私はお前を慰めながら

トッテンカンと蹄鉄うち。

ああ、わが馬よ、

友達よ、

私の歌をよっく耳傾けてきいてくれ

私の歌はぞんざいだろう、

私の歌は甘くないだろう、

お前の苦痛に答えるために、

私の歌は

苦しみの歌だ。

焼けた蹄鉄を

お前の生きた爪に

当てがった瞬間の煙のようにも、

私の歌は

灰色に立ちあがる歌だ。

強くなってくれよ、

私の友よ、

青年よ、

私の赤い焔を

君の四つ足は受取れ、

そして君は、けわしい岩山を

その強い足をもって砕いてのぼれ

トッテンカンの蹄鉄うち、

うたれるもの、うつもの、

お前と私とは兄弟だ、

共に同じ現実の苦しみにある。

渡辺知明氏による
小熊秀雄の詩作品朗読
http://kotoba-hyogen.seesaa.net/category/527786-1.html

 

『師団通り所見』
旭川風物詩(昭和13.6 旭川新聞」)
鈴蘭通りの美しさ

北国のよるの街は白痴美

商店街のネオンサインは

光りの瞼をうごかさず

もっとも人生万事

動けば金がかかるからね

でも街を静寂から救うものは

光りの明滅ではなく

市民が活動的であることだ!

光りも、心も、

共に明るい街となれ

我々の旭川よ!

『北海ホテルの茶房』
旭川風物詩(昭和13.6)
北海ホテルの茶房で

僕はひとときの旅愁を味わう

ここは旭川のジャーナリストの巣で

卓上の桜草をふるわして

打合せをしたり原稿を書いたり

フレー、ジャーナリスト

文化は新聞から

市民のために

精々イキのよい

人生を探しだしてくれよ

『火の見やぐら』
旭川風物詩(昭和13.6)
古き火の見は

時を越えてそそり立つ

茫漠たる街と原野

夜も昼も見守る

はてもなき展望

ここで火の番でも勤めたら

相当ながいき出来そうだ

『旭橋の感想』
旭川風物詩(昭和13.6)
旭橋、橋に掲げられた大額には

『誠』と書かれてあった

この橋をわたるとき

市民は脱帽した

私も敬意を表した

しかし橋や建築師に

脱帽したのではない

人間の『誠実』を愛する

こころに脱帽したのだ

愛と、誠実の街

旭川よ!

蹄鉄屋の歌 師団通り所見 火の見やぐら 北海ホテルの茶房 旭橋の感想

小熊秀雄について 作品抜粋紹介 その39年の略年譜 研究文献と執筆者


re_top