第33回・平成15年度の受賞者作品
中原悌二郎賞
舟越 桂/水の山
FUNAKOSHI Katsura/Mountain as Water

受賞の言葉
 名誉ある中原悌二郎賞に選んでいただき、大変感激しております。ありがとうございました。今まで、賞を取りたいと思っていた事はほとんどありませんでしたが、何度かいただいた賞は、いただいてみると、やはりとてもうれしいものでした。それは私だけのものではなく、私を支えてくれる家族や親兄弟、そして友人や先輩方への恩返しや、お詫びにもなってくれるように思えたからでもありました。
 ただ私自身にとっては、ある種の宿題を与えられたように、これからの制作に期待をされるという意味合いが強く意識されます。人の行かなかった道をどこまで迷子になっていくことができるのか。その道こそが私自身をより作り上げてゆき、作品と私を「たったひとつのもの」という存在にしていってくれるのだと思っています。全ての人がかけがえのない、たったひとつの存在であるように。
舟越 桂 略歴
1951 岩手県盛岡市に生まれる
1975 東京造形大学彫刻科卒業
1977 東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
1982 個展(ギャラリーおかべ)開催
1985 個展(西村画廊)開催
    東京芸術大学彫刻科非常勤講師(−'86)
1986 文化庁芸術家在外研修員としてロンドン滞在(―'87)
1988 第43回ヴェネツィアビエンナーレ出品
1989 東京造形大学彫刻科非常勤講師
    第20回サンバウロビエンナーレ出品
1990 東京芸術大学彫刻科非常勤講師(−'91)
    第1回タカシマヤ文化基金新鋭作家奨励賞受賞
1992 『森へ行く日 舟越桂作品集』(求龍堂)刊行
1995 第26回中原悌二郎賞優秀賞受賞
    『水のゆくえ 舟越桂作品集』(京都書院)刊行
1997 第18回平櫛田中賞受賞
    『おもちゃのいいわけ』(すえもりブックス)刊行
1998 『言葉の降る森』(角川書店)刊行
2000 東京造形大学彫刻科特任教授
2001 『立ちつくす山 舟越桂作品集』(求龍堂)刊行
2003 「舟越桂Works.1980−2003」(東京都現代美術館ほか)開催
                   ほか個展▲出品展覧会多数

作品名 水の山
制作年 2001
寸 法 h77×w69×d40cm
材 質 楠に彩色、大理石
発 表 「タカシマヤ美術賞展」東京日本橋高島屋ほか
撮影:今井智己

選考経過  中原悌二郎賞選考委員長 
選考委員長 酒井 忠康  美術評論家、神奈川県立近代美術館館長
選考委員 安斉 重男  写真家
江口  週  彫刻家、第24回中原悌二郎賞受賞
澄川 喜一  彫刻家、第11回中原悌二郎賞優秀賞受賞
建畠  哲  美術評論家、多摩美術大学教授
渡辺 豊重  画家、版画家、立体造形作家  (敬称略)
※澄川喜一選考委員は、6月7日に開催された第33回中原悌二郎賞選考委員会を都合により欠席

 第33回中原悌二郎賞選考委員会は、6月7日、旭川パレスホテルにおいて開催されました。今回から、6名の新しい選考委員によって受賞作家を選考しました。2001年8月から2003年3月末までに発表された作家の作品(63人63点)を対象に協議しました。その結果、中原悌二郎賞は舟越桂氏の<水の山>に、中原悌二郎賞優秀賞は多和圭三氏の<沼>と青木野枝氏の<玉鋼−V>に決定しました。
 舟越氏の仕事については、近年、特に若い人たちから注目されています。その理由は、人間の生き方のさまざまを木彫による肖像彫刻で表現していて、それが観る人の心の鏡に映つして、あたかも自分に問いかけられているという実感を抱かせる一面があるからかもしれません。つまり、作品との親密な対話をひらいてきたこの作家のユニークな表現は、ある意味で文学的であったり、詩人のように独り言の世界に浸る感動を与えたり、とにかく孤立しがちな現代人の心の空白を埋め、生命の力を改めてみなぎらせる効験があるように思われます。
 多和氏の仕事は、ただひたすらに鉄の固まりを叩き続けることによって、そこに生ずる労働の意味を改めて考えさせるところがあります。いささか哲学的な深遠さを持ちながら、じっと観ていると、ある種のユーモラスな光景が見えてきたりします。それは、無益な労働が形づくる有意義な時間の消費と言ってもよく、効率を気にかける現代人を見事に風刺した一面でもあります。
 青木氏の仕事は、鉄を主にしたもので、あたかも切り紙細工のように軽やかにみせているところが特徴です。
同じ鉄を素材にした彫刻でも、このように軽快な感じを持つ作品に展開させているのは、空間の魔術に優れた素質を示しているからに違いありません。彫刻造形の、新しい性格を開拓している作家と言ってよく、優秀賞に相応しい感じがいたします。
 本賞候補、優秀賞候補にそれぞれ十数名がリストアップされ、受賞者と甲乙つけがたい作家が多く、選考にはたいへん苦慮しました。特に、ビエンナーレ方式を採用した今回は、従来といささか気分を新たにして、この中原悌二郎賞というものに対して期待するところが大きかったために、選考委員各氏もその点を留意され、議論を重ねました。
 彫刻もまた時代の産物である以上、彫刻の持つ造形的な意味や形も、当然、変化を要求されます。また、鑑賞する側にもその変化を感受する努力が必要です。彫刻を通じて問いかけられる問題は、例えば、暮らしの風景についての疑問や、大切にすべき自然の循環が美しいかたちで維持されているのかどうか、ということにまで及んでいます。33回を数えるこの中原悌二郎賞の意義は、まさに彫刻を通じて捉えられた時代の変貌そのものと言っても過言ではありません。過去の間違いは見えても現代の過ちは見えにくいと言われるけれども、現代を最もするどく照射する芸術領域がまさに彫刻なのだということを考えると、改めて私たちは中原悌二郎賞の持つ意義を自覚するのではないでしょうか。
                                
中原悌二郎賞優秀賞 多和 圭三 『沼』
中原悌二郎賞優秀賞 青木 野枝『玉鋼−V』
 これまでに受賞された方々

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